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執筆者の写真Furuya Hirotoshi

音色を構築する・・・ピアノ調律から考える

音色の構築という考え方を、ピアノ調律から見極める

スタインウェイ・グランドピアノ 中古

欧米と日本での仕事を通し、様々な疑問や違いの発見というものが日々あります。 今回扱いたいのは、『音の構築』という考え方です。皆さんピアノの調律・メンテナンスという言葉から何を想像するでしょうか?保守・点検・補修・修理・ピッチ合わせ・・・ 色々有ることと思います。そこに『音色を構築している』という答えを導けた方は、どれほどいらっしゃるでしょうか? 日本におけるピアノ調律の認識というものは、一般的にはかなり受け身に似た保守的なものです。調律やメンテナンスによって、積極的に音作りというものを行うというものではなく、あくまで狂ったもの・傷んだものを元に戻す、若しくは直すといったところで認識が止まってしまっています。これは、『コラム:間違いを認める謙虚さ』でも述べていますが、そもそもピアノの文化が入ってきた時点で、欧米のコピー・模倣というところで考え方が止まっている故、その背景にある奥深い哲学を理解できなかった為の一つの結果と言えるかと思います。つまりは、形が同じでパーツ構成も同じ、しかし出てくる音やその後の音の作り方というものを、学び・思想を取り込み感性を働かせるところまで行かない、典型的な一例と言えるのではないでしょうか。 Piano Technician Masterclassesという、アメリカで権威あるピアノテクニシャンたちのための、マスタークラスが開かれています。そこでは、伝説的なピアノ調律師達が指導を行っており、巨匠ピアニストたちを支えてきたノウハウが、広く公開されています。こうした場では、長い期間を経て作られていく音色というものを非常に重要視しており、短期間では成し得ない音というものを教えています。 ヨーロッパでも勿論同じような考え方を持ち合わせており、師事した元ハンブルグ・スタインウェイのコンサート・アーティスト部で手腕を振るった、ステファンからは、 『ピアノは1年や2年でどうにか音が良くなるものではない。10年単位で育てるものなんだ。』 という教えがありました。 実際に私が感じるのは、どんなピアノであれ短期間では確かに何も見えてきません。それは殆が生まれたばかりのピアノであり、何ら判断する要因がないとも言えます。しかし日本でピアノを選定する折には、 『購入したその時点が最高潮のピアノであり、そこからは右肩下がりに性能が落ちていくもの。』 という認識が殆です。何故そうなってしまったのか? そこには先ず、真に音色を作れる人材の不足というものが大きいかもしれません。真にヨーロッパ、アメリカで学んだ人というのは、どれほど居るでしょうか?言葉の問題など大したことはありません。そうではなく、欧米社会から真に価値ある人として認められ、ビジネスのパートナーとして金銭が支払われるほどの価値を認められた日本人は存在するのでしょうか?ドイツには、1人お名前を伺った日本人の方がいらっしゃいました。著名メーカーの顔として、カタログにも掲載されるほどです。なので、欧米というのは能力さえあれば認めるという文化が有る故に、全ての問題はスキル(能力)です。ハーバード大の教授で、物凄く訛りの強い先生方など日常茶飯事です。特にビジネス・スクールともなれば、数学や統計学に強いインド系の先生方が多いので、私の場合はネイティブの教授は半数ほどしか所属していないクラスに割り当てられました。それが世界ランキング1位の大学機関がとった選択です。 それほどに、世界のトップはコミュニケーションとしての言葉は大切であっても、それ以上に『世界の舞台で何が勝負できるのか?』という問いを個々に強いる傾向があります。能力主義ですから、非常にフラットな関係です。人種や言葉、思想の壁もありません。 そんな舞台で通用する才能・感性・実力を持ち合わせた人材というものが、これまでに一体どれほど日本で育成されたのでしょうか? 日本から派遣され、研修を受けてもそれはあくまで研修であり、世界で活躍する能力には達していないはずです。達しているのであれば、普通に声がかかるでしょうし、その才能を活かせる舞台というものも用意されることでしょう。それが私が見てきた世界の舞台です。しかし実際のところ、そうした活躍というものを見る機会は全く無く、常に私は唯一の日本人ということで活動をすることが殆です。 結局のところ、本来の意味で音というものを扱うにあたり、本当のところは理解しきれていない状況で、ピアノ大国となってしまった日本という国に、歪みが発生しているのではないでしょうか? 本来は長期的な目線に立ち、そして大切に育むものが、どうしても目先のものに追いやられてしまい、本来必要であった価値観の構築をなおざりにして来た証として、本来できるはずのものが構築できていないように思えます。 そして真の豊かさを意味するはずであった、『音の構築』という考え方が、現在に至るまで日本に殆ど存在していない云われではないかと考えています。 そして私たちの目指すものは、こうしたこれまでに存在しないと思われる、国内の音楽産業の穴を埋めるべく、欧米の音楽業界から業務を受注する体制を整えており、極めて質の高いフィードバックを国内市場に提供しています。一流の欧米業界からの受注を需要視する背景には、こうした一連の溝を埋める目的もあり、より研ぎ澄まされた感性をご紹介する意図も含まれています。

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