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執筆者の写真Furuya Hirotoshi

スタインウェイピアノは生きている



スタインウェイピアノのメンテナンス

今日はスタインウェイ・グランドピアノのメンテナンスでした。一度11月にも伺っていたので、期間としてはそこまでの空きはなかったのですが、オーナーがレコーディングをこなしていたこともあり、ピッチを始めピアノはかなり疲れ気味の様子でした。 しかし、よく弾かれているスタインウェイピアノというのは、正に可能性の宝庫。調律・調整、全体を整えた後の音というのは、それまでとは全く異次元の世界へピアノが連れて行ってくれます。少しの要素、少しのきっかけを与えられるだけで、大きく変化を遂げ昇華できるのがスタインウェイとも言えるので、正に生き物と感じることが多々あります。 今回の経験もその象徴とも言うべきもので、グランドピアノを調律中に音色の輝き、絶妙なタッチから生み出される豊かな倍音が、それまでとは一味違ったものであることを感じさせてもらえました。 昨年末にも同じような経験をしており、成田空港に到着したスタインウェイ・グランドピアノB型を、ほぼそのままの状態で納品し、そこから徐々にピアノとしての価値を高めていくという手法をとったことがありました。オーナーの意向もあったのですが、納品する側としても成田のみの検品では不安を感じるところもあり、意を決して仕事に取り組みました。その上、成田からそのまま納品されたピアノは、オーナーから「今一つ・・・」という反応。必ずピアノのテンションを上げていくという約束をし、約1年かけてグランドピアノを見守りました。 その後、そのスタインウェイは正に黄金とでも言うべき音を放つようになり、ニューヨークに住んでいたオーナーから、「スタインウェイの本社でも、ここまでのグランドピアノは聴いたことが無い」と絶賛されるほどのピアノに仕上がりました。その間僕は何をしていたかと聞かれれば、一部の味付け意外特段変わったことをするわけでもなく、ただただスタインウェイが本来の能力を発揮するのを待ち続けただけでした。 大切なことは、そのピアノが能力を発揮するまで待つ期間。そして、その期間を如何に有用な形で過ごし、よく練られた音色を放てるように手助けすることだと思っています。教え込もうとするのではなく、ピアノ自身の持つスキルを呼び起こせるような体制を整えることこそが、本物のメンテナンスと言えるのかもしれないと感じています。

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